ハートランドとエビカレー。神保町のカレー屋「エチオピア」に辿りつくまで
おいしいお昼ごはんが食べたい。
そう思って、神保町をひたすら歩いていた。
ただただ、おいしいごはんが食べたい。
ただそれだけのシンプルな願いなのに、慣れない街のためか、出くわすのはチェーン店かラーメン屋ばっかり。納得のいく店がみつからない。
しかも、夜は焼肉に行く予定だったから、肉が選択肢から外れるわ、GW中でシャッターを下ろしている店もあるわでさらに店探しのハードルは上がっていた。
本屋とラーメン屋と、シャッターと、バカでかい都会の道路をながめながらひたすら歩いた。
それなのに、どうにもこうにも、よい店がみつからず時間も時間だし……と、私たちは、とうとう自分たちの信念をまげて、チェーン店らしき蕎麦屋の扉を開いた。が、その瞬間、2人の足は固まる。無機質な券売機。窮屈そうな座席。小綺麗だけど個性のない店内。心地のよくない、ファーストフード店のようなガヤガヤ感。
「オレたちの求めている場所ではない」
声にしなくても彼氏がそう思っているのがわかった。私も同じだった。
席につくことなく、店を後にして、また歩く。
しばらくして、ふと、お昼ごはんを探す前の時間に、「定食」という看板を見かけたのを思い出す。力を振り絞って私の危うい記憶のなかの「定食の看板」を目指すことに。途中、何度か道を間違えながら、おぼろげな記憶の地にたどり着いた。
が、定食の看板は見つからず……。時刻はすでに、3時に近いから閉まってしまったのかも。でも、なんとなく、チェーン店でもラーメン屋でも肉料理でもないお店がチラホラ。そんななか、彼が一言。
「このカレー屋、なんでこんなに混んでるんだろ」
この一言がきっかけで、こじんまりとしているけど窮屈さを感じさせないこのカレー屋の2Fの窓際に腰掛けて「エビカレー」を待つことになった。
先に酒とつまみに手をつけてからあとでごはんを食べるオジサンスタイルがデフォルトの彼と一緒に、私もサラダをつつきながら、ハートランドを飲む。
「カレー、気持ち遅めてでお願いできる?」と店員さんにお願いする彼氏。笑顔で「気持ち遅めですね」と言ってくれるおねえさんの優しさにふれながらビールののどごしを満喫した。
店の名前は「エチオピア」。
店内では女性がコーヒーを注いでいるモノクロのポスターがエチオピア感を高めていた。コンパクトなテーブルと、椅子。いると落ち着く、昭和っぽい店内だ。
エビカレーがやってきた。普通、シーフードカレーとかそういう類のカレーって、お決まりのようにシーフードの量はもうしわけ程度なのだけど、この店のは違う。
「食べれば食べるほどエビが増えているような気がする」
なんて彼氏が言っていたが、それほど、かみごたえのあるエビがゴロゴロ。そして、スパイスと玉ねぎの旨味が凝縮されたさらさらのルーと硬めだけどモチリとしたごはん。どちらもつやつやしている。
窓から見えるのは、エチオピアの看板に、街路樹の緑、床屋の青と赤と白の壁。景色までが店と一体化しているような気がした。
濃紺で縁取られたお皿もかわいくて、この店いいな、とますます好きになる。
皿について彼氏に話しかけようしたちょうどそのとき、わたしよりひと足早く、スプーンが進んでいる彼氏の皿を見ると、カレーの中から「エチオピア」の文字が現れた。げー、かわいい。カレーめちゃくちゃ美味しいんだけど、美味しいだけじゃなくて、こんなふうにささやかなかわいらしさがある店なんだな。
途中、信念を曲げてしまったけど、それでもあきらめずに歩き続けてよかった。そう思わせてくれる店だった。
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